ー2代目店主からのご挨拶ー




阪急箕面市桜井駅のすぐ近くに
ドイツ菓子 グロス・オーフェンはあります。
1981年の開店以来、近隣の方々に
密かに愛されて40年が経ちました。



先代店主との出会い



かく言う私もそう、この店の味に惚れ込んだ客の1人であり、従業員でもありました。

会社員だった私は勤務先のすぐ近くにある洋菓子店で働くパティシエの姿を幾度か見るうちにその仕事に興味とあこがれを持つようになり、 「自分もパティシエになろう!」と心に決め、パティシエとして修業をさせてもらえるお店を探し始めました。


そしてたまたま知人に紹介してもらったお店がグロス・オーフェンだったのですが、店主の人当たりがよく気さくな人柄に惹かれた私は、この店で修業させてほしいとお願いをしたところ、快く採用してくれました。

お菓子つくりは全く未経験の私でしたので、店主は器具の使い方から材料の名前と扱い方など基本的なことから
丁寧に教えてくれました。



それと同時にこの仕事の美しさや使命感、さらには人生において何が大切な事であるかを学びました。

漸進的ではありましたが、やがて店内に並ぶ商品を自分が作り、
お客様に提供することができるようになると、私はそこに大きな喜びを感じ、パティシエを一生の仕事にしていこうと決心し、これまで以上に洋菓子つくりにのめり込んでいきました。


でもこれはまだまだ序章にしか過ぎなかったのです。




洋菓子の知識、技術不足を思い知る



ある日、友人と有名な洋菓子店を訪ね、そのお店のスペシャリテのケーキを食べたときに大きな衝撃を受けました。

それは何層かのムースで構成された複雑なものでしたが一口食べると全てが絶妙なバランスで
私がこれまでに食べてきたお菓子の中でダントツに美味しかったのです。

ケーキのおいしさにもかなりの衝撃を受けましたが、それよりも大きな衝撃は、 このケーキがどのような材料を使い、どのような方法で作られているのか?という事が、
全くといっていいほどイメージできない・・・
3年間も菓子つくりに携わってるのに・・・
という自分の力不足を思い知ったことでした。

パティシエを一生の仕事にしていこうと決意をしていた私でしたが、自分の意識の低さを思い知らされました。

その道のプロフェッショナルになるということは、今働いているお店で必要とされる技術を習得すれば終了。
ではなく「製菓」というジャンル全ての事柄に携わり、知識、経験、技術を習得しておくべきなのだと。






もう一度、ゼロからの出発



そこからはこれまで以上に洋菓子の世界にのめり込んでいきました。

多くの製菓に関する本を読みあさり、時間があればお店の終業後に厨房を借りていろいろな国の伝統的なお菓子を作ってみたり、工芸菓子を作ってみたり・・・と、すべて独学ですが勉強する毎日が始まりました。

こんな私の行動も店主は温かく見守り、時にはアドバイスもしてくださったりと、陰ながらいつも応援してくれていました。
新しい技術を取り入れたケーキの講習会などにも積極的に参加するよう勧めてくれました。
パティシエとしてさらに視野を広げるために私はグロス・オーフェンを一度離れ海外の製菓学校に留学、現地のお菓子屋さんでの研修、
そして帰国後は知人の紹介してくれた店で働いていました。






本当に良いものを残したい



グロス・オーフェンを離れて十数年、国内外問わずたくさんの洋菓子を食べてきましたが
どれもそのお店の作り手の気質が出ているなと思います。
そしてお客様はそれを感じ取り、自分の気質と合うお店をお気に入りとするのでしょう。

私の場合、最後にたどり着いた味はやはりグロス・オーフェンの味でした。
洋菓子に込められた想いや姿勢が私と似ているからでしょう。
(実際、身内のように育ててもらったのであたりまえかもしれませんが)


ある日、店主からそろそろ引退を考えているという話をされた私ー。
その時頭に浮かんだのは、これまで40年変わらぬ味を守り続けたお菓子たちと、その味に懐かしさ、温かみ、親しみ を感じてこの店を長年愛してくださっている地元のお客様の顔でした。

このお店が無くなってしまうというと知ればきっと地元のお客様は落胆するだろう。
何よりも私がいちばん残念でなりませんでした。

そこで、「私にこのお店を引き継がせてほしい」とあつかましくもお願いしたところ、店主は快く応じてくれました。
そのうえ、「すべてを継ぐ必要はない」とも言ってくれました。
作り手にはそれぞれの想いや信念があり、それは時代に合わせて柔軟に変化していくものなのだからと。

時代は令和。
これまでに店主がお菓子に込めた「お菓子でお客様を笑顔にしたい」という想いに自分の想いを重ね合わせ、
このグロス・オーフェンに新たな息吹を吹き込みたいー。



2019年秋
グロス・オーフェン2代目店主 清水久弘